エッセイ『旅の途上の』

知の流れにまかせるまま異国にたたずんでいると知が騒ぎます。何かと出くわして衝撃を受けることによって知が身体をつたいます。でも、知のにじむような旅の向こう側には知のしたたる至福が待つので知しぶきを浴びたり異郷者として通過儀礼的に生き知を吸うことは厭わないです。旅人の知は争えません。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

旅路という作品

旅の途上の道は空間芸術や時間芸術の素材になると同時に作品それ自体にもなるのです。 多岐と多難さとを思わしめる目の前に拓かれた幾里もの荒涼たる道を多くの人々が往来し、その前後の営みの中で生を表象するために粉骨砕身してきました。画家は時代の心象…

一所懸命な空間と一生懸命な時間

旅の途上のあらゆるものが「一所懸命」から「一生懸命」となりました。かつては空間に命を懸けていた人々は今では時間に命を懸けるのです。 はるか昔、人々が「一所懸命」に労働に従事していた頃、彼らは場所に縛られていました。ゲルマン民族が大移動してヨ…

波打つ言葉たち

旅の途上の異邦性という静寂の中で異質な言葉の反響音を聴くとき、旅人は幾多の小さな音のつらなりを、打ち寄せる波のように感じながら異文化の浜辺に立ち尽くします。 街の中の市場に足を踏み入れると、波のように大挙して押し寄せる言葉たちが礼節を伴った…

小さくて大きな街

旅の途上で立ち寄ったとても小さな街グアナファトはとても大きな街でした。 狭い峡谷にしがみつくように立ち並ぶコロニアルな建造物や住宅の数々はみな色気づいていました。パレットに表現され得る全ての色が施された建物群はカラーチャートと化し、不規則に…

車窓は現実化する

旅の途上で乗った列車が映し出す幾つもの窓枠はまるで額縁のように展示されて一種のミュージアムと化していました。 どの車窓からも美しく変わりゆく絵画を堪能することができるから、進行方向右側の丘の向こうにある人の気配の無い牧歌的な小さな村の絵を鑑…

公共空間から交響空間へ

旅の途上の悲しき公共空間を通り過ぎると、喜ばしき交響空間に辿り着きました。 よそ者にとって不可侵の私的空間という環境においては、一度その扉の外に出たらわきまえなければならない身のほどや善悪のたがの全てが崩壊され、控えめであることが命取りにも…

言葉の城郭都市

旅の途上の言語空間で動き続ける神秘的な言葉たちに出会いました。異郷の門を叩いて潜るたびに多彩な言葉たちを嗅いで内耳と網膜の助けを得ながら身体に取り込み、山積みになった言葉の世界が潤うのを体感します。旅人にとっては新参者である言葉たちが神秘…

赤でも青でもない紫

旅の途上の国境という周縁(margin)は重要な中心から見ればノートの余白(margin)のように末端なものに過ぎないけれど、中心というのは変化しうるものだからいつでも周縁となり、周縁もいつでも中心となり得るというのが社会の根本に潜むダイナミズムの実…

旅するモノたち

旅の途上にあるのは人のみならず、モノや資本やイメージや価値も同様に旅をしながらわたしたちの生活に影響を及ぼします。 かつて人々は自分の時間と空間を直接的に体感していました。自分の時間とは自分のいる場所の日毎や季節的周期によって規定され、自分…

旅する故郷

旅の途上で異郷と故郷を交錯させながら旅人がようやく辿り着いたのは旅する故郷でした。 故郷を後にして、隔てた時の空間を張り裂けるほど膨らませながら異郷を探し求める苦悩の旅人が、必死にもがきながら自分の故郷から解き放たれようとしていましたが、旅…

見ているものに見られる

旅の途上では「何を」見るかではなく「どうやって」見るかが要請され、今そこの生きられた経験に恋に落ちるように誘導され、見ているものに見られ、聞いているものに聞かれ、話しているものに話されることが喚起されるのです。 ようやく辿り着いた宿場町で観…

旅の途上の内なる他者たち

旅の途上で自分と出会うために内へ内へと自らを閉じ込めるのではなく、外へ外へと自らを解き放っていた旅人が、他者の内へと迫ろうとしていました。 自分ときちんと向き合って自分の考えを省みることを「内省」といいますが、内省する自分は主体であり、内省…

カオスとコスモスの対話

旅の途上で異邦人らの居場所を演出する異空間は、構造的な社会やネットワークの隙間に入り込んで亀裂や隙間を作りながら異文化を培養させます。 周囲と比べて異なるものは、音や匂いや風貌もしくは内面の輝きのみならず劣悪で毒性の強いものであったとしても…

エアポートに漂う/エアポートを漂う

旅の途上のエアポートがどれも同じように見えたり香ったりすることがあります。 ミャンマーのヤンゴン空港がパゴダの景観で到着客をいざなったとしても、イースター島のハンガロア空港がモアイ像の景観で到着客をいざなったとしても、異なるはずなのに2つの…