エッセイ『旅の途上の』

知の流れにまかせるまま異国にたたずんでいると知が騒ぎます。何かと出くわして衝撃を受けることによって知が身体をつたいます。でも、知のにじむような旅の向こう側には知のしたたる至福が待つので知しぶきを浴びたり異郷者として通過儀礼的に生き知を吸うことは厭わないです。旅人の知は争えません。

言葉の城郭都市

旅の途上の言語空間で動き続ける神秘的な言葉たちに出会いました。異郷の門を叩いて潜るたびに多彩な言葉たちを嗅いで内耳と網膜の助けを得ながら身体に取り込み、山積みになった言葉の世界が潤うのを体感します。旅人にとっては新参者である言葉たちが神秘的なのは、それらが記憶の棚に積まれた言葉たちが有するものとは異なった音の空間を展開し、異なった文脈を浴びせられた意味を申し立て、異なったレトリックの世界を旅のページに拓くからなのです。

そうやって呑み込まれた瑞々しい未知の言葉たちが古いなりに洗練された既知の言葉たちと顔を突き合わせることになると、聞き手や読み手の外耳や瞳を通じて心震わせる言葉たちは身体と精神の境界をぼかしながら感情の回復を促します。見知らぬ土地で見知らぬ言葉のクラスターに這い入られ、聞き知らぬ言葉のスコールを浴びせられる旅人は、修辞のロジスティクスに従って承認を得て整序された言葉のラグーンがざわついて伸縮しながら膨張したり収縮したりするのを目の当たりにして戸惑い、血を湧き上がらせながら肉を跳ね躍らせますが、次第に言葉たちの交渉は合意に達して安寧がもたらされることで旅人は再び活気づくのです。

そうやって再生された命は旅人の眼差しや体温によって時空の壁を破り、これまで慣れ親しんだ言葉たちが新たな道案内を随行しながら地平を乗り越えるために勇猛果敢に旅路に向けた一歩を踏み出すことを可能にするのです。新たな言葉たちとの出会いは未開の扉をこじ開けて、過去において無造作に積み上げられた言葉の城壁を惜しげもなく破壊させます。境界を窮屈なほどに定義づけてきた城壁が崩れ去った後に姿を現した都市は悠然と構えながら言葉の城郭都市を築き、神秘的な言葉たちが演出する様々な彩りで満たされた旅人の生は、今ここにあるという記憶を取り戻すのです。