エッセイ『旅の途上の』

知の流れにまかせるまま異国にたたずんでいると知が騒ぎます。何かと出くわして衝撃を受けることによって知が身体をつたいます。でも、知のにじむような旅の向こう側には知のしたたる至福が待つので知しぶきを浴びたり異郷者として通過儀礼的に生き知を吸うことは厭わないです。旅人の知は争えません。

旅の途上の美しきもの

溢れ出すフォトジェニックな現実

旅の途上は多彩でフォトジェニックな現実を自ら生み出すのです。 至るところで収集された個々の経験は美学の扉を解き放ち、言葉にされる以前のコスモスへと旅人を招き入れます。自然豊かな森に足を踏み入れて「あるがままの自然」という存在不可能な対象物を…

車窓は現実化する

旅の途上で乗った列車が映し出す幾つもの窓枠はまるで額縁のように展示されて一種のミュージアムと化していました。 どの車窓からも美しく変わりゆく絵画を堪能することができるから、進行方向右側の丘の向こうにある人の気配の無い牧歌的な小さな村の絵を鑑…

名も無き場所で

旅の途上の何でもない場所は何でもない場所であるがゆえに名も無き場所です。 例えば、切り立った岩肌に囲まれた畑で育つ緑色した作物が薄い帯のようなものを織り成していて、そこを通り抜けて川を渡り、急な山の側にしがみつくように敷かれた未舗装の道路を…