エッセイ『旅の途上の』

知の流れにまかせるまま異国にたたずんでいると知が騒ぎます。何かと出くわして衝撃を受けることによって知が身体をつたいます。でも、知のにじむような旅の向こう側には知のしたたる至福が待つので知しぶきを浴びたり異郷者として通過儀礼的に生き知を吸うことは厭わないです。旅人の知は争えません。

香りのパンデミック

旅の途上の豊穣な「匂い」もしくは「臭い」または「香り」は、歪んだ時空を潤沢に演出しきっていました。

すべての香りは匂いを放ち、良い「匂い」と悪い「臭い」という主観的な審判が下されるまでは永世中立的な匂いであり続け、その多様な富は全人類に分配され得るほど膨大なものなのです。自然な香りは豊かさとまろやかさを公平に放ちながら想像力と創造力の源泉となり、たとえ不自然に調合された合成物であったとしても骨格と輝きでその存在感を示しながら不自然な自然を演出します。浸透する香りは明るい色で無尽蔵の喧騒世界を満たし、時代遅れなパラドックスに包み込まれた香りは贅沢で魅惑的な立ち振る舞いで独自の世界を放つエッセンスとなるのです。                                           

香りは空間を支配しながら適切な場所に君臨し、分離されることが不可能な空間を生み出すことによって自己呈示します。同じ匂いに再び遭遇すると、すれ違いのスナップショットに心を奪われるような感覚で苦しむことになるのです。ターミナルでは異質な旅人同士の香りと香りがぶつかり合い、ときに香りは遠慮しがちに来訪者らのために道を譲ります。リズムよく韻を踏むような香りで装飾された異郷は次第に視覚と嗅覚の饗宴と化し、街をナビゲートする視覚はその街を認識する嗅覚と重なり合うことによって、嗅覚的コンテクストの付された香りのマッピングを旅人たちに差し出すのです。

同時にまた、香りは時間も支配しながら適切な時間帯を統治し、隔絶することが困難な時間を刻むことによって自己呈示します。朝の生気に満ちた香りはその日の漂いをまとってしっかりと身体化しながら自らを瓶詰し、闇を置き去りにした昼下がりの日常を誰にも気づかれないように照らし、街の至るところをサバンナの燃えるような夕日が射す頃には欲望を反映した優雅なラストノートを醸し出すのです。

このようにして、時空を彷徨う匂いの帝国は旅人と旅人の隙間を途中下車しながら世界を香りのパンデミックで彩るのです。